調べ方ガイド
事故物件とは何か — 告知義務の範囲と対象外をガイドラインで読む
「事故物件」は法律の用語ではなく、国交省ガイドライン(2021年10月)の本文にも一度も出てこない。ガイドラインが扱うのは居住用不動産での「人の死」で、自然死や日常の不慮の死は原則告げなくてよい。それ以外の死は賃貸で概ね3年が目安、売買に期間の目安はない。建物を取り壊した後の土地は、まだ対象外だ。
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「事故物件」という言葉は、法律にも、国土交通省のガイドラインにもない。2021年10月に公表された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を読むと(PDFで10ページ、表紙と目次を除いた本文は8ページ)、この言葉は一度も出てこない。使われているのは「人の死に関する事案」と、「いわゆる心理的瑕疵」という言い方だ。
言葉が無いのだから、「事故物件かどうか」に法律上の答えはない。あるのは「不動産業者は、どんな死を、いつまで、誰に告げなければならないか」という決まりだけだ。この記事は、その決まりをガイドラインの原文どおりに並べる。読み終えたら、「この部屋は事故物件か」という問いが、「この部屋で起きたことは、告げる対象か」という問いに変わっているはずだ。
「事故物件」はガイドラインに出てこない
ガイドラインの正式な名前は「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」。国土交通省が2020年2月から検討会を開き、2021年10月8日に公表した。対象は宅地建物取引業者、つまり不動産の売買や仲介を業とする会社だ。個人の売主や貸主に直接の義務を課す文書ではなく、業者が仲介する取引で「どう対応すれば宅地建物取引業法上の義務を果たしたことになるか」の目安を示している。
本文で「事故物件」を検索すると0件。「心理的瑕疵」は6回出てくる。うち4回は「いわゆる」を頭に付けた言い方で、残る2回は検討会の名前(「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」)と、裁判例の紹介(「自然死について、心理的瑕疵への該当を否定したもの」)だ。ガイドライン自身が、この言葉を定義された用語として扱っていない。
もう一つ、ガイドラインが最初に断っていることがある。「いわゆる心理的瑕疵は時間の経過とともに希釈され、やがて消滅するとの裁判例もある」。つまり、一度何かがあった部屋がずっと「事故物件」であり続けるという前提を、国の文書は取っていない。
対象になるのは「居住用不動産」だけ
ガイドラインが扱うのは、住むための不動産だ。本文は「居住用不動産を取り扱うこととする」と書き、事業用(店舗や事務所など)は対象外としている。理由は、住む家では「人の死に関する事案は、その取引の判断に影響を及ぼす度合いが高いと考えられる」からだ。
業者に「自分から調べる義務」はない
意外に思う人が多いのはここだ。ガイドラインは、業者が人の死について自発的に調査する義務までは、宅地建物取引業法上は認められないと書いている。近所への聞き込みや、インターネットでの検索を業者に求めてはいない。
業者がすべきことは、売主・貸主・管理業者に告知書(物件状況等報告書)などの書面で「過去に生じた事案」の記載を求めることだ。これで「媒介活動に伴う通常の情報収集としての調査義務を果たしたものとする」。売主や貸主が「不明」と答えたり無回答だったりした場合は、その旨を告げれば足りる。
言い換えると、業者が「知らなかった」ことと「隠した」ことは、ガイドラインの上で別物だ。ただし、売主等から知らされた場合や自分で認識した場合に、それが判断に重要な影響を及ぼすと考えられるなら、業者は買主・借主に告げなければならない。
告げなくてもよい死、告げる死
ガイドラインの中心は「4.告知について」の節だ。業者が原則として告げなくてもよい場合が、三つ挙げられている。
① 自然死、日常生活の中での不慮の死。 老衰や持病による病死、階段からの転落、入浴中の転倒、食事中の誤嚥など。「居住用不動産について発生することは当然に予想される」ので、賃貸でも売買でも原則告げなくてよい。ただし、亡くなってから長期間発見されず、いわゆる特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は別扱いになる。
② 賃貸で、①以外の死(または特殊清掃を伴う①の死)から概ね3年が経過した場合。 発覚から「概ね3年間を経過した後は、原則として、借主に対してこれを告げなくてもよい」。ただし「事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではない」。借主が日常的に使う共用部分(廊下やエレベーターなど)も、部屋と同じ扱いだ。
③ 隣の部屋や、日常的に使わない共用部分で起きた①以外の死。 これも原則告げなくてよい。ただし②と同じく、事件性や周知性が特に高い事案は除く。
ここで大事なのは、②の「3年」は賃貸だけの目安だという点だ。売買については、ガイドラインは期間の目安を示していない。「事故物件は3年で告知義務がなくなる」という言い方は、賃貸の話を売買にまで広げた誤解になる。
国交省が賃貸向けに出した1枚の資料は、「よくある誤解」として「自然死も含め、3年間は告知必要」を挙げ、自然死(特殊清掃なし)は経過期間にかかわらず原則告知不要だと念を押している。3年は「自然死も告げる期間」ではなく、「自然死以外を告げる期間の目安」だ。
聞かれたら、期間に関係なく答える
上の三つには、全部に共通する例外がある。ガイドラインの4.(3)は、発覚からの経過期間や死因にかかわらず、買主・借主から事案の有無を問われた場合、また買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると業者が認識した場合には、調査で判明した点を告げる必要があるとしている。
つまり「告知義務がなくなる」は「黙っていてよい」ではない。3年が過ぎていても、借りる側が「この部屋で亡くなった人はいますか」と聞けば、業者は知っている範囲で答えなければならない。内見前に何をどう聞くかは「事故物件の調べ方」に書いた。
告げる中身にも線がある。4.(4)は、亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏に配慮し、「氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はない」とする。告げるのは事案の存在で、人の詳細ではない。
まだ「対象外」のもの — 取り壊した後の土地
ガイドラインの結びには、現時点で対象にしていない取引が三つ書かれている。
- 人の死が生じた建物が取り壊された場合の土地取引
- 搬送先の病院で死亡した場合
- 転落により死亡した場合の落下開始地点
理由は「一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や不動産取引の実務の蓄積がなく」。禁止でも許可でもなく、まだ決めていない、という状態だ。ガイドラインは「新たな裁判例や取引実務の変化を踏まえるとともに、社会情勢や人々の意識の変化に応じて、適時に見直しを行う」としている。
調べていて意外だったのは、この「土地」の空白だ。建物が無くなれば、告知の目安からも外れる。だが土地の側に記憶が残らないわけではない。更地や新しい建物の下に何があったかを知る方法は、ガイドラインの外にある。「土地に昔何があったか調べる方法」に、地図と資料でたどる手順をまとめてある。
「改正された」という話について
「告知義務 改正」で検索する人がいる。確かめた範囲では、2021年10月の本文は改正されていない。国交省の掲載ページには本文(令和3年10月)と、「令和6年3月時点の最新版」と書かれた概要が並んでいるが、変わっているのは概要の版で、本文は同じだ。見直しの方針は本文の結びに書かれているとおりで、時期は示されていない。
大島てるの掲載と、告知義務は別の物差し
事故物件情報サイト「大島てる」に載っているかどうかと、業者が告げなければならないかどうかは、別の物差しで動いている。前者は一般の利用者の投稿を含む情報の集まりで、後者は業者の義務の目安だ。大島てるに載っていない部屋にも告げるべき事案はありうるし、載っている部屋が告知の対象外ということもある。炎の印の読み方は「大島てるをスマホで見る方法」に書いた。
なお、ガイドラインは業者の対応の目安であって、「ガイドラインに沿った対応をしても民事上の責任を回避できるものではない」と本文にある。個別の取引で争いになったときの判断は、契約の内容や依頼の内容で決まる。自分の取引について迷うなら、担当の宅地建物取引業者か弁護士に聞くのが早い。
- 事故物件はいくら安くなるか → 事故物件はいくら安くなる?。公の割引率の表は無く、裁判所は家賃の月数と代金の割合で一件ずつ数えてきた
- 孤独死は年に何人か → 孤独死は年に何人か。警察庁・内閣府・保険の記録を、数えている範囲ごとに並べた
参考・出典
- 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」(令和3年10月・本文PDF)
- 国土交通省 報道発表「『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』を策定しました」(令和3年10月8日)
- 国土交通省 ガイドライン掲載ページ(本文と概要「令和6年3月時点の最新版」)
- 国土交通省「ガイドラインのポイント等(賃貸住宅の場合)」(1枚もの・「よくある誤解」の記載)
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4件出典に基づいて掲載している
訂正履歴
公開後に内容を改めた箇所を、日付とともに記録している。
- :「心理的瑕疵」の出てくる回数を「4回、いずれも「いわゆる」付き」としていたのを、「6回。うち4回が「いわゆる」付きで、残る2回は検討会の名前と裁判例の紹介」に直した。あわせて「本文10ページ」を「PDFで10ページ、表紙と目次を除いた本文は8ページ」に直した。
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