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重ねるハザードマップの見方 — 地名の次に確認すべきこと

色が塗られていないことは、安全を意味しない。最初に出る洪水の色は想定最大規模で、計画規模に切り替えると変わる。白い場所は、想定されていない・データ未整備・掲載対象外のどれもありうる。地名が気になったら災害の層より先に土地の成り立ちの層を見て、最後は市町村のハザードマップに戻る。

2026-09-16 | 執筆・編集:痕跡マップ編集部
目次(5項目)

地名に「窪」や「谷」が入っているのが引っかかって、重ねるハザードマップを開いた。住所を入れる。自分の家のあたりに、色がついていない。

これで安心していいのか。色が塗られていないことは、安全を意味しない。国土交通省のサイト自身が、リスク情報の表示がない場所について「被害危険性が想定されていない、またはデータが未整備」と説明している。そしてもう一つ。同じ住所でも、表示を切り替えると色が変わる。この二つを知らずに色だけを見ると、読み違える。

重ねるハザードマップは、国土交通省水管理・国土保全局防災課と国土地理院応用地理部地理情報処理課が運営するハザードマップポータルサイトの機能で、洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報や土地の成り立ちを地図に重ねて表示できる。無料で、登録もいらない。難しいのは操作ではなく、出てきた画面の読み方のほうだ。

最初に出る色は、千年に一度のほう

災害種別の「洪水」を選ぶと、まず洪水浸水想定区域(想定最大規模)が表示される。操作マニュアル(令和7年3月・国土地理院)に「初期表示されます」と明記されている挙動で、こちらが既定値になっている。

ここが最初の分かれ目だ。洪水の浸水想定には二つの規模がある。サイトのよくある質問は、それぞれをこう定義している。

つまり既定で出ているのは、想定できる最大の雨のほうだ。表示を計画規模に切り替えると、同じ住所でも色が薄くなったり、消えたりする。どちらかが正しくてどちらかが嘘、という話ではない。頻度の違う二つの雨を、別々に描いた図が二枚ある、というだけだ。両方見て、はじめてその土地の幅が分かる。

洪水の浸水想定の想定最大規模と計画規模を、年超過確率とともに並べた比較表
洪水の浸水想定の想定最大規模と計画規模を、年超過確率とともに並べた比較表

年超過確率という言い方には、同じ質問ページが釘を刺している。「年超過確率1/100規模の洪水」は、洪水が100年間隔で発生することを意味しない。100年のうちに2回以上起きることも、1回も起きないこともある。去年降ったから当分こない、という読み方は成り立たない。

白い場所の意味は、三通りに分かれる

色が塗られていない場所には、少なくとも三つの理由がありうる。

一つ目は、本当に想定されていない場合。二つ目は、データがまだ作られていない場合。三つ目は、そもそも掲載対象の外という場合だ。三つ目が厄介で、数字を見ると規模が分かる。

オープンデータ配信ページによれば、洪水の想定最大規模は国管理河川448河川と都道府県管理河川1,646河川を載せている。いっぽう内水——下水道の排水能力を超えた大雨であふれる浸水——の想定区域は、62市町村の分しか掲載されていない。全国の市町村は1,718(市792・町743・村183。総務省)だから、載っているのは数十分の一にあたる。サイト側も、内水の区域図を作成している段階の市町村があると注記している。高潮は18都道府県(26沿岸)、津波は40都道府県。

色が塗られていない場所の三つの理由と、洪水・内水・高潮・津波の掲載範囲の数字を並べた図
色が塗られていない場所の三つの理由と、洪水・内水・高潮・津波の掲載範囲の数字を並べた図

さらに細かい話として、東京都の公表図面は浸水深0.1メートル未満の区域を着色しておらず、重ねるハザードマップもそれに合わせている、と同じページは記す。数センチの浸水は、白く表示されるということだ。

土砂災害のほうにも同じ構造がある。質問ページは、土砂災害警戒区域でない区域でも土砂災害は発生すると明言している。警戒区域は「現在人家等が存在する、又は将来人家等の立地が予想される箇所」を対象に、過去の土砂災害の9割以上をカバーするよう地形から基準を決めて指定されたものだ。裏を返せば、人家のない山あいの道路は、はじめから線の外にある。

白は「調べた結果、何もなかった」の印ではなく、「この地図はここについて何も言っていない」の印だと思っておくほうが、実態に近い。

地名の次に開くのは、災害の層ではなく土地の層

重ねるハザードマップには、災害リスクとは別に、土地の特徴・成り立ちの情報が入っている。公式パンフレットが挙げているものだけでも、土地条件図、治水地形分類図、明治期の低湿地、活断層図、色別標高図、大規模盛土造成地、地形区分に基づく液状化の発生傾向図、過去から現在までの空中写真がある。

地名が気になって開いたのなら、洪水の色よりも先にこちらを見たほうが早い。「窪」や「谷」という字が残っている土地は、地形分類や治水地形分類図で後背湿地や旧河道として描かれていることがある。名前と地形が同じことを言っているなら、その地名は地形の記録として機能していた、という裏が取れる。逆に、字面は水っぽいのに地形の層では何も出てこないこともある。その場合は、由来が水と関係なかったか、後から字が当てられたか、造成で地形が変わったかを疑う。地名から入るときの手順は水害と地名の関係 - 「さんずい」地名は本当に危険かに、旧河道の読み方は旧河道とは?地形分類図と空中写真で読む「昔の川」の痕跡にある。

石碑を探すなら、国土地理院の地理院地図に自然災害伝承碑の層がある。「過去に発生した自然災害(洪水、土砂災害、高潮、地震、津波、火山災害等)の様相や被害状況等が記載されている石碑やモニュメント」を集めたもので、2026年8月27日の更新時点で全国684市区町村2,469基が公開されている。1938年の阪神大水害で橋が流された神戸の住吉川では、台座の右わきに当時の洪水水位を刻んだ水災紀念碑が立っている。想定の色ではなく、実際に水が来た高さが石に残っている例だ。大阪湾岸のように、1950年のジェーン台風で広範囲が浸水した記録が残る土地もある。

自然災害伝承碑が全国684市区町村2,469基公開されていることを示した図
自然災害伝承碑が全国684市区町村2,469基公開されていることを示した図

深さの数字と、ピンの位置には幅がある

浸水深の数字にも、読み方の約束がある。

表示される深さは、海面からではなくその地点のおおよその地盤高からの深さだ(基準は東京湾平均海面)。また、色は6段階または8段階のランクで、ピンポイントの数値ではない。細かい値が要るときは河川管理者の公表図か「浸水ナビ」を見るように案内されている。

質問ページは、誤差についても書いている。地盤高と浸水解析のそれぞれに誤差が含まれ、それが積み重なると、地盤の高さがほぼ同じ隣り合った場所で浸水深が2メートル以上違って表示されることがある、という。周辺の災害リスクを面でつかむ道具として活用してほしい、という注記が添えられている。

ピンの位置にも幅がある。緯度経度のない住所を入れた場合、サイトは東京大学のアドレスマッチングサービスで変換しており、返るのは街区・大字町丁目・市区町村のいずれかのレベルの代表地点であって、正確な場所とは限らない。1点だけ見て判断せず、周囲を動かしながら見るほうがいい。

この種の但し書きは、公式のよくある質問に淡々と並んでいる。精度の限界を先に開示したうえで使ってもらう、という設計になっている。読む側がその前提を飛ばすと、地図のほうが過大に信用されてしまう。

最後は、住んでいる市町村の地図に戻る

一つ押さえておきたいのは、重ねるハザードマップは、水防法に基づいて市町村が作成したハザードマップではない、という点だ。これもサイトの質問ページに書かれている。全国を同じ表現でならして見るための地図であって、避難の判断に使う正式な図とは役割が違う。

だから最後は、自分の市町村の地図に戻ることになる。画面右上の「リスクをまとめて調べる」で地点をクリックすると、ポップアップの下に「○○市のハザードマップを見る」というリンクが出る。ここからわがまちハザードマップへ移ると、その市町村が公開している洪水・内水・高潮・津波・土砂災害・火山・ため池などのハザードマップにたどり着く。避難場所や避難経路の話は、そちらに書いてある。

地名で気になり、重ねるハザードマップで土地の輪郭をつかみ、市町村の地図で行動を決める。順番はこれでいい。途中で色だけを見て止まると、いちばん確かめたかったことが確かめられないまま終わる。

地名で気になり、重ねるハザードマップで土地の輪郭をつかみ、市町村の地図で行動を決める順番を示した流れ図
地名で気になり、重ねるハザードマップで土地の輪郭をつかみ、市町村の地図で行動を決める順番を示した流れ図

なお、地形や地名から分かるのはその土地の履歴であって、いま建っている個々の建物の安全性ではない。住まいや不動産に関わる判断は、行政の公開情報と専門家の確認を先に置く。

あなたの住所の周りに、どんな痕跡が残っているか。→ 痕跡マップで痕跡濃度を測ってみる

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参考・出典

8件出典に基づいて掲載している

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公開後に内容を改めた箇所を、日付とともに記録している。

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