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事故物件はいくら安くなる?「何割引き」の公の基準はなく、裁判所は家賃の月数と代金の割合で数えてきた

事故物件が「何割安くなる」という公的な基準や統計はない。裁判例では、賃貸は「1年貸せず、その後2年は半額」など家賃の約6〜22か月分、売買は代金の1%から25%まで幅がある。年数だけでは決まらず、建物が残っているか、周囲に知られているかで判断が分かれる。

2026-10-05 | 執筆・編集:痕跡マップ編集部
目次(9項目)

「事故物件だから何割引き」という公の決まりは、どこにも無い。国土交通省のガイドラインにも、業界団体の資料にも、割引率の表は載っていない。あるのは裁判所が一件ずつ出した判決で、そこには「貸せない期間」「半額にする期間」「代金の何パーセント」という数え方が残っている。

この記事は、その数え方を並べる。読者が自分の物件の値段を決める材料ではなく、裁判所が何を見て、どう数えてきたかを知るための記事だ。判決は匿名の判例として扱い、場所や物件は書かない。

ガイドラインが脚注で名前を挙げた、三つの判決

告知義務の記事で読んだ国交省のガイドライン(2021年10月)は、本文で割引の話をしない。ただ、脚注1で「告知義務の有無を裁判所がどう判断してきたか」の例として、三つの判決の名前を挙げている。

脚注は、裁判所が取引の目的、事案の内容、時間の経過、近隣に知られている程度などを考えて判断している、と説明する。つまりガイドラインは「告げるかどうか」の線を引いたが、「いくら安くなるか」は裁判所の積み重ねに委ねたままだ。このうち東京地裁 平成22年3月8日の判決は、下の表に出てくる。

「何割安くなる」の公の物差しは無い

ガイドラインを作った検討会の資料にも、割引率は出てこない。全国宅地建物取引業協会連合会が2020年2月に出した資料は、売買では市場価格より減価して売るが、どの程度減価するかは瑕疵の内容と背景による、と書くにとどまる。賃貸については、家賃の減額をどのくらいの期間続ける必要があるかが課題だ、と問いの形で書いている。

同じ検討会に出た不動産適正取引推進機構(RETIO)の資料も、経過年数の表は参考になるが「何年たてば告知不要」という基準にはしにくい、という趣旨だ。公の側は、物差しを作らなかったのではなく、作れないと言っている。

「何割引き」の公の物差しは無く、裁判所が一件ずつ数えてきたことを示した模式図
「何割引き」の公の物差しは無く、裁判所が一件ずつ数えてきたことを示した模式図

裁判所が使う物差しは「住み心地のよさ」

多くの判決が引く基準は、大阪高裁 昭和37年6月21日の判決だ。家として通常あるはずの「住み心地のよさ」を欠けば瑕疵に当たる。ただし、買主が個人的に嫌がるだけでは足りず、普通の人がその事情で住み心地のよさを欠くと感じることに、合理性がある程度に達している必要がある、という考え方だ。

RETIO の整理(112号・2019年)は、判断の材料を六つ挙げる。買主の使用目的(住むか、事業か)、住み方(家族か、単身か)、事件のあった建物が残っているか、事件の重大さ、事件からの経過年数、地域住民の入れ替わりの多さ。執筆者の私見と断ったうえでの整理だが、下の判決を読むと、この六つのどれかが決め手になっている。

賃貸:裁判所は「貸せない期間」と「半額の期間」で数えた

賃貸で貸主が損害を求めた裁判では、家賃をいくら、何か月分と数えるかが争点になる。RETIO の判例集から、数え方が読める判決を並べる。

判決家賃裁判所の数え方
東京地裁 平成22年9月2日12.6万円1年目は貸せず、2〜3年目は半額とみる。逸失利益277万円余と原状回復94万円余
東京地裁 平成19年8月10日6万円同じ型で132万円余。次の借主には告知義務あり、その次は特段の事情がなければ無し
東京地裁 平成13年11月29日4.8万円2年程度で瑕疵でなくなるとし、2年分の差額から中間利息を引いて43万円余
東京地裁 平成22年12月6日8.5万円(相場より割高と認定)相場を5.6万円とし、最初の2年は月2.5万円、次の2年は月1万円下がるとみる。48か月で84万円と、浴室まわりの交換58万4,325円
京都地裁 平成29年12月13日・大阪高裁 平成30年6月19日3.6万円1年目80%、2〜3年目50%の減収とみて逸失利益74万円余。仲介業者の「土地は5割減価」という査定に沿って売った差額2,000万円の請求は退けた
東京地裁 令和4年10月14日23.5万円空室3か月分70万5,000円と、29か月にわたり家賃の3割204万4,500円。家賃の11.7か月分

RETIO は2019年の整理で、自死のあった部屋の逸失利益で総額が家賃の2年分を超えた例は見当たらない、と書いている。算定の型を月数に直すと、「1年貸せない+2年半額」で約22か月分、京都の型で約20か月分、単身用の例で約9か月分、家族向けの例で6か月分。幅は広いが、上限の目安はこのあたりにある。

賃貸の判決の数え方を月数に直して並べた模式図。約6か月分から約22か月分まで
賃貸の判決の数え方を月数に直して並べた模式図。約6か月分から約22か月分まで

隣の部屋と建物全体は、値下がりが認められてこなかった

同じ整理で、建物全体の価値が下がったとする請求が認められた例は見当たらない。自死のあった部屋以外の部屋に告知義務は、特段の事情がない限り無い。京都の裁判で、仲介業者が「土地は5割の減価」と査定し、その値段で売った差額2,000万円を求めた請求が退けられたのも、この線の上にある。

例外はある。東京地裁 平成26年5月13日は、三部屋の玄関前の共用部分で起きた事案について、例外的にほかの部屋にも影響ありとして、一部屋あたり月1.5万円の24か月分を認めた。部屋の中か、共用部分かで、数え方が変わる。

売買:代金の1%から25%まで

売買では、代金に対する割合で損害を数えた判決が多い。

判決事案の要点結果
東京地裁 平成21年6月26日1年11か月前、建物内で服薬し2週間後に病院で死亡。事業用ビル2億2,000万円極めて軽い瑕疵として代金の1%=220万円
大阪高裁 平成18年12月19日8年7か月前、今は無い建物での殺人。更地相当に風化しているとして代金の5%=75万円余
東京地裁 平成22年3月8日3年7か月前、失火で1人死亡。跡地事故死は自然死と違う受け止め方をされるとして瑕疵あり。該当区画の代金の1割弱=200万円
東京高裁 平成22年7月20日決済の前に賃貸アパートの一室で自死その部屋の代金に当たる額の約23%=213万円余
東京地裁 平成18年7月27日1年4か月前、建物内で自死。取り壊す前提競売の評価書は50%の減価としていたが、建物が既に無いことから代金の25%=262万円余
東京地裁 平成20年4月28日・東京高裁 平成20年11月18日2年1か月前の事案。賃貸マンション1億7,500万円一審は損害額の立証が難しいとして民事訴訟法248条で2,500万円。控訴審は建物の市場性などを総合して875万円(代金の5%)に変更
神戸地裁 平成28年7月29日「事件・事故はなかったか」と聞かれたのに7年前の殺人を告げなかった不法行為。市場価格との差額1,575万円と弁護士費用160万円

競売の評価書が50%と見積もった案件で、判決が25%になった例は、評価の実務と裁判所の数え方が同じではないことを示している。神戸の例は値引きではなく、聞かれて答えなかったことへの賠償で、差額がそのまま損害になった。

年数では決まらない:17年で否定、約50年で肯定

経過年数だけで線を引けないことは、判決の並びが示している。

ガイドラインが取り壊した後の土地を対象外にした理由は「一般的に妥当と整理できるだけの裁判例や不動産取引の実務の蓄積がなく」という点だった。RETIO の判例集を見ると、取り壊し後の土地について瑕疵を認めた判決と否定した判決の両方がある。判断が割れていること自体が、整理できない理由なのだと読める。これはこの記事の読み方であって、ガイドラインがそう書いているわけではない。

自然死の扱いは、別の記事で

病死などの自然死は、原則として告げなくてよい死だ(告知義務の記事)。ただし裁判例では、遺体が長く見つからなかった場合に心理的瑕疵とされた例がある。この境目は、孤独死と統計の記事で扱う。

判例を自分で読む方法

この記事の判決は、不動産適正取引推進機構(RETIO)が公開している判例検索システムから引いた。「売買・瑕疵・心理瑕疵」の分類に、判決日、裁判所、概要、掲載号の一覧がある。事件番号は載っていないので、判決日と裁判所、掲載誌(判例時報、判例タイムズ、RETIO の号)で特定する。

読むときに見る順番は、六つの材料と同じだ。使用目的、住み方、建物が残っているか、事案の重さ、経過年数、周囲に知られている程度。判決文の中でこの六つがどう書かれているかを拾うと、「何割」という数字がどこから出てきたかが分かる。数字だけを抜き出して自分の物件に当てはめることは、裁判所自身がしていない。

本文の判決は RETIO の判例紹介に拠る。場所・物件名・当事者は書いていない。個別の物件の価格や契約の判断は、宅地建物取引士や弁護士に確かめること。

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参考・出典

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