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歴史の痕跡

半分だけの鳥居が、80年あまり立ち続けている — 長崎・山王神社の一本柱鳥居

2026-08-08 | 執筆・編集:痕跡マップ編集部

長崎市坂本。長崎大学病院にほど近い住宅地の道に、半分だけの鳥居が立っている。

柱は1本。笠木も半分。左半分がない。

山王神社の一本柱鳥居。正式には二の鳥居といい、観光案内では「片足鳥居」の通称でも紹介される。1945年8月9日午前11時2分、爆心地から南東へ約800メートルのこの場所で原爆の爆風を受け、片方の柱が倒れた。もう片方は、そのまま立ち続けた。それから80年あまり、この鳥居はずっと半分のままで立っている。

1924年に建った、まだ新しい鳥居だった

長崎原爆資料館の遺構資料によると、この鳥居が設置されたのは1924年(大正13年)10月。参道の延長に伴って建てられたものだ。

神社そのものは、ずっと古い。神社の由緒によれば、寛永15年(1638年)創立の山王権現社が起源で、明治17年に皇大神宮と合併して「縣社浦上皇大神宮」となった。いまは山王神社の名で親しまれている。

つまり二の鳥居は、建てられてから被爆までわずか21年。境内の歴史の中では、まだ新しい鳥居だった。

倒れた半分は、すぐそばにある

国史跡の説明資料は、この鳥居に起きたことを正確に記録している。爆風で北側の柱が倒壊し、残った南側の笠木は東へ13度回転した。傾いたまま、崩れなかった。

熱線の跡も残る。立っている柱の爆心地側は表面が剥離して、刻まれていた文字が読めなくなっている。

そして倒れた北側の柱は、片付けられなかった。いまも鳥居のすぐ近くの道路に保存されていて、立っている半分と倒れた半分を、同じ場所で見比べられる。

四つあった鳥居のうち、当時のまま立つのは一つ

山王神社には、一の鳥居から四の鳥居まで四つの鳥居があった。神社の記録では、原爆のあとに立って残ったのは一の鳥居と二の鳥居だけ。

その一の鳥居も、いまはない。原爆に耐えた鳥居は、昭和37年(1962年)、交通事故で倒壊した。当時のままの姿で立っているのは、半分だけの二の鳥居ということになる。

四の鳥居は2021年、境内の発掘調査で柱や笠木の一部が出土したと報じられた(長崎新聞)。戦後、元の位置から40メートルほど動かされていたという。

境内の入口に、2本のクスノキ

参道を上ると、境内の入口に大きなクスノキが2本、門のように立っている。

長崎市の資料によると、この木も被爆している。主幹の上部が折れ、熱線で幹肌を焼かれ、いったんは全く落葉して「枯木同然」になった。新芽が出た時期は、資料館の資料では被爆から約2か月後、神社の由緒では2年ほど後と、記録に幅がある。いずれにせよ、枯木同然と言われた木は生き返った。

昭和44年(1969年)2月15日、「山王神社の大クス」として長崎市の天然記念物に指定された。樹齢は400年以上といわれる。2025年7月の樹木医の診断では、病気も害虫も幹の空洞もなし(NCC長崎文化放送)。長崎出身の福山雅治さんが2014年に発表した「クスノキ」は、この木がモチーフになっている。

「奇跡」と書くかどうか

調べていて、ひとつ気づいたことがある。

神社の公式サイトは「奇跡的に右半分だけの一本柱の状態で残りました」と書く。一方、長崎市や原爆資料館の説明文は「奇跡」という言葉を使わない。倒れた方角、回転した角度、剥離した表面。物理的な事実だけを淡々と記す。

どちらが間違っているという話ではない。神社にとってこれは御神域に起きた出来事で、資料館にとっては記録し続けるべき物証だ。同じ鳥居について両方の書き方を読み比べると、この場所が慰霊と記録の両方を担ってきたことが見えてくる。

2016年10月3日には、爆心地・旧城山国民学校校舎・浦上天主堂旧鐘楼・旧長崎医科大学門柱とともに、国史跡「長崎原爆遺跡」に指定された。

大阪との接点

大阪にも、長崎と直接つながる痕跡がある。1945年7月26日に大阪市東住吉区の田辺へ投下された模擬原爆は、長崎に落とされた原爆「ファットマン」と同じ形・同じ重さに作られた訓練用の爆弾だった。模擬原爆と大阪・田辺に書いている。

訪ねるときに

路面電車の「大学病院」電停から徒歩8分ほど。JR浦上駅からなら徒歩10分ほど。鳥居は生活道路の上に立っていて、いつでも見られる。

国の史跡であると同時に、ここはいまも現役の神社の参道だ。近所の人が普通にくぐって通る。訪ねるなら、その日常ごと、静かに見て帰りたい。

場所と資料は山王神社 一本柱鳥居のページにまとめてある。

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