長者橋(戦争で消えた灯具を、市民の写真から復元した橋)|何があった場所か
横浜市中区、日ノ出町駅の東のスクランブル交差点の先で、大岡川に長者橋が架かっている。横浜市道路局橋梁課の「はしのはなし」第十四稿は、長者橋を中区長者町と日ノ出町を結ぶ橋とし、橋長26.0メートル、幅員22.9メートル、竣工を昭和3年(1928年)、橋種を上路式コンクリートアーチ橋と記す。同じ資料は、市内に大正12年(1923年)の関東大震災の復興橋梁として178橋が架けられ、長者橋はいま残る40橋のうちの1橋だとする。横浜市の認定歴史的建造物の一覧は、長者橋の所在地を中区日ノ出町・中区長者町、建築年代を昭和3年、認定年度を令和3年度とする。
同じ第十四稿は、江戸時代初期の吉田新田の開墾にともない、新田の埋立地へ行き来するための橋がいまの長者橋の位置に架けられたとし、明治7年(1874年)に架け替えられた木橋が、いまの地名でもある長者町の名をとって長者橋と名づけられたといわれる、と記す。関東大震災ではほかの多くの橋と同じく長者橋も被災して焼失し、復興事業の一環として、昭和3年に国の施工でいまの橋へ架け替えられた。同じ資料は、この時期の震災復興橋梁は応急的で簡素な形の橋が多かったとし、それだけ意匠にこだわっているのは、当時からこの路線が市民にとって重要だったことがうかがえる、とする。
残っている形のほうが、消えたものを教えてくれることがある。同じ資料は、震災復興橋梁の特徴である大きな親柱と灯具について、戦時中に国の主導で行われた金属の供出の対象となり、長者橋の灯具も姿を消したと記す。昭和50年代後半、横浜の都市景観を復元する取り組みが高まったとき、長者橋には横浜復興誌にも親柱の意匠図が残っていなかったが、地元の市民から開通式当時の写真の提供を受け、それをもとに灯具の復元が実現したという。同じ資料はその灯具を、刃をかたどった高さ3メートルの親柱の灯具と説明する。
橋の袂には公衆トイレがある。これも震災復興の名残で、同じ資料は、災害時の応急対応と治安維持の観点から橋詰広場の活用が見直され、復興事業では橋詰広場に共同便所・巡査派出所・材料置場・散水施設・機具納庫を設けるよう定められていた、と記す。トイレの中には、認定を記念して長者橋の成り立ちや昔の写真が掲示されているという。車も歩行者も多い交通の要衝なので、車道に出ず、歩道から眺めたい。

近くの痕跡
- 旧平沼専蔵別邸の亀甲積擁壁(別邸が建っていた斜面に、亀甲積みの石垣が残る)(地の痕跡・約426m)
- 野毛山配水池(日本最初の近代水道が始まった山は、いまも水を配っている)(水の痕跡・約467m)
- 派大岡川の跡(関内と関外を分けた川と、その上に重なった高速道路)(水の痕跡・約564m)
- 吉田川・新吉田川の跡(大通り公園と、橋の名を集めた陶板)(水の痕跡・約613m)
時のながれ
- 江戸時代初期 — 吉田新田の開墾にともない、新田の埋立地へ行き来するための橋が、いまの長者橋の位置に架けられる。
- 明治7年(1874年) — 架け替えられた木橋が、長者町の名をとって長者橋と名づけられたといわれる。
- 大正12年(1923年) — 関東大震災により被災し、焼失する。
- 昭和3年(1928年) — 復興事業として国の施工で架け替えられ、上路式コンクリートアーチ橋になる。
- 戦時中 — 国主導の金属の供出により、親柱の灯具が姿を消す。
- 昭和50年代後半 — 地元市民から提供された開通式当時の写真をもとに、灯具が復元される。
- 令和4年(2022年) — 3月24日、横浜市認定歴史的建造物に認定される。橋としては15橋目にあたる。5月8日に記念式典が行われる。
編集部の調査メモ
このページを作るにあたって、編集部が何を確認したか、このページでどう扱ったかを記録しています。
資料で確認できたこと
- 横浜市道路局橋梁課の「はしのはなし」第十四稿「長者橋ものがたり」(令和4年10月発行)は、諸元として、名称を長者橋(ちょうじゃはし)、所在地を中区長者町、橋長を26.0メートル、幅員を22.9メートル、竣工を昭和3年(1928年)、橋種を上路式コンクリートアーチ橋と記す。
- 同じ資料は、長者橋を、日ノ出町駅を降りて東側スクランブル交差点の先にあり、桜並木やプロムナードでも親しまれる大岡川に架かる、中区長者町と日ノ出町を結ぶ橋とし、主要地方道横浜駅根岸線の野毛町や伊勢佐木町の入り口に位置する交通の要衝だとする。
- 同じ資料は、横浜市内には大正12年(1923年)の関東大震災の復興橋梁として178橋もの橋が架けられ、長者橋は復興事業で架け替えられ現在も残っている40橋のうちの1橋だと記す。
- 同じ資料は、江戸時代初期に吉田新田の開墾に伴い、新田の埋立地へ行き来するための橋が現在の長者橋の位置に架けられたとし、その後、交通機能の不便により、明治7年(1874年)に架け替えられた木橋が現在の地名でもある長者町の名をとり長者橋と名付けられたといわれている、と記す。
- 同じ資料は、大正12年(1923年)の関東大震災により長者橋も被災して焼失し、その後、復興事業の一環として昭和3年(1928年)に国の施工により現在の長者橋に架け替えられ今に至ると記す。
- 同じ資料は、この時期の震災復興橋梁は応急的でシンプルな形状の橋が多い中、これだけ意匠にこだわっているのは、当時からこの路線が市民にとって重要な路線であったことが伺えると記す。また、横浜における震災復興橋梁として河川に架けられたコンクリートアーチ橋は3橋があったが、それぞれ架替え及び廃止により長者橋が現存する唯一の橋となったとする。
- 同じ資料は、震災復興橋梁の特徴としてみられる巨大で意匠性の高い親柱と灯具が、戦時中に国主導で行われた金属の供出により、金属製であった橋の灯具の多くもその対象となり、長者橋の灯具もそのひとつとなって姿を消したと記す。
- 同じ資料は、昭和50年代後半に横浜の都市景観を復元する取組への機運が高まり長者橋も復元の計画となったが、長者橋には横浜復興誌にも親柱の意匠図が残っておらず、地元市民より開通式当時の写真を提供いただき、これをもとに灯具の復元が実現したと記す。灯具は「刃」をモチーフとした高さ3メートルの親柱の灯具と説明されている。
- 同じ資料は、長者橋の袂に公衆トイレが存在することを震災復興橋梁ならではの特徴の一つとし、災害時の応急対応・治安維持の観点から橋詰広場の存在と活用方法が見直され、震災復興事業では橋詰広場に共同便所(公衆トイレ)のほか巡査派出所(交番)、材料置場、散水施設、機具納庫(消防・消毒)等を設置するよう定められていたと記す。トイレの中には認定歴史的建造物になった記念で長者橋の成立ちや昔の写真等が掲示されているとする。
- 同じ資料は、長者橋が震災復興橋梁として歴史的価値を改めて評価され、令和4年3月24日に横浜市認定歴史的建造物として認定を受けた橋のひとつであり、橋梁としては15橋目の認定にあたるとし、5月8日に記念式典が行われたと記す。
- 横浜市の認定歴史的建造物の一覧は、長者橋の所在地を中区日ノ出町・中区長者町、建築年代を昭和3年(1928年)、認定年度を令和3年度とする。
- 同じ資料は、長者橋の周辺の復興橋梁には、不同沈下が生じても上部構造に無理な変形が生じないゲルバー桁橋が多いとし、都橋・宮川橋・旭橋・黄金橋を3径間ゲルバー桁橋、長者橋を単純支持コンクリートアーチ橋として並べる。付近には野毛山の丘陵部が迫っており周辺と比べ地盤が良好であったことからアーチ構造を採用することができたと考えられる、とする。
そのため、このページではこうしています
- 残存数は、40橋と37橋の両方を、どちらの資料の数かがわかる形で並べた。「当時の姿のままで」という条件の有無による差とも読めるが、数え方の違いを示す資料には行き当たっていない。
- 座標は大岡川に架かる長者橋の上に置いた。
現地確認: 未実施
❓まだ分かっていないこと
この場所には、資料ではまだ確認できていない事柄がある。
- 明治7年(1874年)の架け替えで長者町の名をとって長者橋と名付けられたという点は、横浜市の資料自身が「いわれています」という伝聞の形で記しており、名付けの経緯を直接示す資料には到達できなかった。
- 江戸時代初期に架けられたという最初の橋の名は、資料にない。横浜市の資料は、明治10年ころの地図の段階で地図上の記載が長者橋になっていると記すにとどまる。
- 震災復興橋梁がいま何橋残っているかについて、横浜市道路局橋梁課の資料どうしで数が合わない。「はしのはなし」第十四稿(令和4年10月)は長者橋を「現在も残っている40橋のうちの1橋」とし、同じ橋梁課の震災復興橋梁のページは「当時の姿のままで現存している橋は37橋になっています」とする。架けられた総数が最大178橋である点は一致する。
参考・出典
4件出典に基づいて掲載している
- はしのはなし 第十四稿 長者橋ものがたり(VOL.14 令和4年10月)
横浜市道路局橋梁課 - はしのはなし
横浜市道路・交通政策局建設部橋梁課 - 震災復興橋梁
横浜市道路・交通政策局建設部橋梁課 - 横浜市認定歴史的建造物 一覧
横浜市都市整備局企画部都市デザイン室
訂正履歴
公開後に内容を改めた箇所を、日付とともに記録している。
- :出典に書いた発行元の名前を、資料のページに書かれた表記(横浜市道路・交通政策局建設部橋梁課)にそろえた。
- :出典に書いた発行元の名前を、資料のページに書かれた表記(横浜市都市整備局企画部都市デザイン室)にそろえた。
この場所について
この場所について、いま知っていることを教えてください。