山手隧道(あとから掘られたほうが、第二ではない)|何があった場所か
中区の麦田町と石川町のあいだ、山手の丘を貫いて二本のトンネルが並んでいる。横浜市道路局橋梁課は、このうちの山手隧道を橋長219.0メートル・幅員10.73メートルのアーチ断面の山岳トンネルとし、大正12年(1923)の関東大震災からの復興事業として建設され、昭和3年(1928)に供用を始めたと記す。市の都市デザイン室は、設計を横浜市復興局、施工を間組と記す。工事は地山の掘削から前後の道路の舗装までを含み、震災復興事業としては最大規模の費用を要した。橋梁課は工事費を当時の価格で約52万円とし、現在の貨幣価値に換算するとおよそ36億円ほどになると記す。
隣に並ぶ第二山手隧道は、名に第二とあるのに、山手隧道より古い。橋梁課は、こちらが明治44年(1911)に建設され、当時は市電専用のトンネルとして運用されていたと記す。大正8年(1919)発行の横濱新地圖には、西の橋の上流に市電専用の橋と、その路線上の市電専用トンネルが描かれている。市電以外がここを行き来するには一山を越えて大回りするほかなく、道路トンネルの建設は震災の前から市民の強い要望があったとされる。昭和47年(1972)に横浜市電が廃止されると、第二山手隧道は道路トンネルとして使われるようになった。いまは山手隧道が上り線、第二山手隧道が下り線を受け持っている。
坑口はアーチ型に縁取られ、全体に石が貼られている。本牧側は、同じ時期に架けられた櫻道橋や周辺の擁壁と同じ材料を使い、ひと続きに見えるようつくられた。トンネルの名を刻んだ銘板は、ふつう坑口の天端の中央に据える。ところが山手隧道のそこには何もない。よく見ると、左上の高い位置に山手隧道と刻まれた銘板がひっそりと付いている。橋梁課は、地元で麦田のトンネルという呼び名のほうが一般的なのは、意匠のために銘板が目につきにくく、正式名称の印象が薄いからではないかと記す。平成13年度(2001)に横浜市認定歴史的建造物となり、平成27年(2015)には打越橋・谷戸橋・西の橋・櫻道橋とともに、元町・山手地区の震災復興施設群として土木学会選奨土木遺産に選ばれた。

近くの痕跡
- 桜道橋(山手隧道と同じ石で仕上げ、断たれる道をつないだ橋)(地の痕跡・約158m)
- 西の橋(先代は南区に移り、いまの橋は市電の橋の跡に架かる)(水の痕跡・約360m)
- 谷戸橋(震災の前と後で、架かる筋が変わった橋)(地の痕跡・約799m)
- 港橋(川も先代の橋も消えて、花の紋章が残った)(地の痕跡・約1.0km)
時のながれ
- 明治44年(1911) — 第二山手隧道が市電専用トンネルとして建設される
- 大正12年(1923) — 関東大震災。市内の交通網も大きな被害を受ける
- 昭和2年(1927)12月 — 麦田町側の坑門の銘板が記す建設の時点
- 昭和3年(1928)3月 — 山手隧道が開通し、市道4号線が本牧まで延長される
- 昭和47年(1972) — 横浜市電が廃止され、第二山手隧道が道路トンネルになる
- 平成13年度(2001) — 横浜市認定歴史的建造物に認定される
- 平成27年(2015) — 元町・山手地区の震災復興施設群として土木学会選奨土木遺産に選ばれる
編集部の調査メモ
このページを作るにあたって、編集部が何を確認したか、このページでどう扱ったかを記録しています。
資料で確認できたこと
- 横浜市道路局橋梁課が発行する「はしのはなし」第十一稿(令和3年10月)は、山手隧道を中区石川町に所在する橋長219.0メートル・幅員10.73メートルのアーチ断面の山岳トンネルとし、大正12年(1923)の関東大震災の復興事業により建設され、昭和3年(1928)に供用開始されたと記す。
- 同じ資料は、山手隧道の工事が地山の掘削や前後の道路も含めた舗装工事を伴い、震災復興事業としては最大規模の費用を要したこと、工事費が当時の価格で約52万円、現在の貨幣価値に換算すると約36億円ほどになることを記す。
- 同じ資料は、麦田町側の坑門部の銘板に建設が昭和2年12月と記されており、正式に開通したのは昭和3年3月であること、周辺の交通状況から開通式より前に暫定的に使われていたことを記す。
- 同じ資料は、このトンネルができる以前は関内地区から本牧方面へ向かうのに一山を越えて大回りせざるを得なかったため、関東大震災以前から道路トンネルの建設に市民の強い要望があったとされること、開通により市道4号線が本牧まで延長されたことを記す。
- 同じ資料は、山手隧道が建設当時は日本一・東洋一の幅員を誇る道路トンネルと謳われたこと、同年代の市内のトンネルの幅員が代官隧道5.14メートル(昭和2年竣工)、東隧道5.25メートル(昭和5年竣工)、相武隧道8.26メートル(昭和18年竣工)、萩台トンネル9.63メートル(昭和48年竣工)であることを記す。
- 同じ資料は、第二山手隧道が明治44年に建設され、山手隧道より古くから同じ場所にあること、当時は市電専用トンネルとして運用されていたこと、昭和47年(1972)の横浜市電廃止にともない道路トンネルとして生まれ変わり、山手隧道が上り線、第二山手隧道が下り線を担うようになったことを記す。
- 同じ資料は、大正8年(1919)2月発行の「横濱新地圖」に西の橋上流の市電専用橋と、その路線上の市電専用トンネルが確認できること、当時は市電以外でここを行き来するには大回りする必要があったことを記す。
- 同じ資料は、坑口がアーチ型の縁取りで全体に石貼りが施されていること、本牧側の坑口が同時期に建設された櫻道橋や周辺の擁壁と同一の材料を使った一体感のある意匠であること、トンネル名の銘板が一般的な坑口天端部ではなく左上の高い位置に付いていることを記す。
- 同じ資料は、橋梁課が管理するもののうち土木学会選奨土木遺産に選ばれたものとして、平成18年の横浜水道に関わる隧道(東隧道)、平成27年の元町・山手地区の震災復興施設群(打越橋、谷戸橋、西の橋、山手隧道、櫻道橋)、平成28年の響橋を挙げる。
- 横浜市都市整備局都市デザイン室のページは、山手隧道の所在地を中区麦田町1-17~石川町1-39、構造をアーチ断面の道路(山岳)トンネル、建築年代を昭和3(1928)年、設計を横浜市復興局、施工を間組と記す。
- 横浜市の歴史的建造物の保全のページは、山手隧道を歴史的建造物に認定された橋およびトンネル12箇所の一つに挙げ、所在を中区麦田町1-17地先から石川町1-39地先まで、構造をアーチ断面の道路(山岳)トンネル、建築年代を昭和3(1928)年、市認定歴史的建造物を平成13(2001)年8月と記す。横浜市認定歴史的建造物の一覧も、山手隧道の認定を平成13年度と記す。
そのため、このページではこうしています
- 竣工年は、複数の資料が一致する昭和3年(1928)を採った。昭和2年12月は銘板が記す建設の時点で、開通は昭和3年3月にあたる。
- 座標は石川町側の坑口付近を採った。
- トンネルの中は車道である。坑口を見るときは歩道からとし、車道に立ち入らないこと。
現地確認: 未実施
❓まだ分かっていないこと
この場所には、資料ではまだ確認できていない事柄がある。
- 第二山手隧道が明治44年に市電専用トンネルとして開通した経緯を直接示す、市電側の記録には到達できなかった。
- 山手隧道が建設当時に日本一・東洋一の幅員であったという評価の出どころは、参照した資料からは特定できなかった。橋梁課の資料は、そう謳っていたと記すにとどまる。
- 第二山手隧道が明治44年の建設からいつまで市電専用であったかについて、昭和47年の市電廃止より細かい時期を示す記述には到達できなかった。
- 竣工年の西暦が食い違う。橋梁課の資料は諸元の欄に昭和3年(1927)と記すが、同じ資料の本文は昭和3年(1928)に供用開始と記し、都市デザイン室と歴史的建造物の一覧はいずれも昭和3(1928)年と記す。
- 所在地の書き方が分かれる。橋梁課の資料は中区石川町とするが、都市デザイン室は中区麦田町1-17~石川町1-39、橋梁課の歴史的建造物の保全のページは中区麦田町1-17地先から石川町1-39地先までと両側の番地まで記し、横浜市認定歴史的建造物の一覧は中区麦田町~石川町と町名までを記す。
- 同じ時期の橋の表記が分かれる。橋梁課の資料は櫻道橋と書き、歴史的建造物の一覧は桜道橋と書く。
参考・出典
5件出典に基づいて掲載している
- はしのはなし 第十一稿 山手隧道ものがたり(番外編:隧道のはなし)(VOL.11 令和3年10月)
横浜市道路局橋梁課 - はしのはなし
横浜市道路・交通政策局建設部橋梁課 - 山手隧道(歴史を生かしたまちづくり)
横浜市都市整備局企画部都市デザイン室 - 歴史的建造物の保全(歴史的建造物に認定された橋およびトンネル)
横浜市道路・交通政策局建設部橋梁課 - 横浜市認定歴史的建造物 一覧
横浜市都市整備局企画部都市デザイン室
訂正履歴
公開後に内容を改めた箇所を、日付とともに記録している。
- :出典に書いた発行元の名前を、資料のページに書かれた表記(横浜市道路・交通政策局建設部橋梁課)にそろえた。
- :調査メモで、橋梁課の歴史的建造物の保全のページが山手隧道の所在を町名だけで書いているとしていたのを、原文どおり番地まで(中区麦田町1-17地先から石川町1-39地先まで)に直し、所在地の書き分けの説明もそれに合わせた。
- :出典に書いた発行元の名前を、資料のページに書かれた表記(横浜市都市整備局企画部都市デザイン室)にそろえた。
この場所について
この場所について、いま知っていることを教えてください。